■『後拾遺和歌集』

今月も日本の和歌から。

［訳文］

たったひとりだけ、

わたしだけがと、嘆いていた、

主(あるじ)のいなくなった家は荒れて行くばかり……。

ここにもまた、

やはりひとりだけ、

わたしだけがと……。

［解題］

●もとの歌は赤(あか)染(ぞめ)衛(え)門(もん)の作。

ひとりこそ荒(あ)れゆくことはなげきつれ主(ぬし)なき宿(やど)はまたもありけり

●この歌には次のような詞(ことば)書(がき)が添えてあります。

匡(まさ)衡(ひら)におくれて後(のち)、石(いし)山(やま)に参(まい)り侍(はべ)りける道(みち)に、新(あたら)しき家(いえ)のいたう荒(あ)れて侍(はべ)りけるを問(と)はせければ、親(おや)におくれて、二(ふた)とせにかくなりて侍(はべ)るなりと言(い)ひければよめる

●匡(まさ)衡(ひら)とあるのは大(おお)江(え)匡(まさ)衡(ひら)で、赤染衛門の夫。夫が亡くなった後に石(いし)山(やま)寺(でら)に参詣したところ、新しそうなのにひどく荒れている家があったので、尋ねてみると、親が亡くなって二年でこのようになったと返事であった。

●先月この欄で紹介した同じ赤染衛門の歌と同様に、人と共感する心を詠んでいる。

［参考書］

久保田淳・平田喜信校注『後拾遺和歌集』（新日本古典文学大系8）、岩波書店（1994年）